対談⑥ 中城ちひろさん

ダンサー/セルフメンテナンス学習スタジオ運営/ピラティストレーナー

 

4歳の頃にジャズダンスとクラシックバレエを習い始める。高知県内の中高一貫進学校を経て一橋大学商学部に進学し、卒業後は不動産会社に就職。その間もダンス活動を続け、2017年3月に退職、ダンスおよびヘルスケアの世界で独立。同年6月末、表現と体づくりをテーマにした世界一周の旅へ。

 

私がこれまでインタビューさせていただいた方々は、いずれも良い意味で“道を踏み外した人”。今回ご紹介する中城ちひろさんも、大変いい感じに踏み外しています(笑)幼少の頃から英才教育を受けて一橋大学に進み、一般企業に就職するも、ついに今年、長年の夢だった世界で独立を果たしました。

そんな中城さんに、ちょっとだけ人生の先輩、しかも大きく道を踏み外した者として(汗)「私みたいにならないで!」という思いを込めてインタビューさせていただきました。

*インタビュー@新宿

 

三つ子の魂百まで

徳橋:中城さんは4歳の頃にダンスを始められたそうですが、それはご自身の意思ですか、それとも親御さんが始めさせたのでしょうか?

中城:親です。ただ私の家系には誰もダンスを習っていた人はいませんでした。

それより前、私はスイミングスクールに通っていました。これも親が、私に健康な子に育ってほしかったから始めさせたことなのですが、とにかく水が怖くて、私がすごく嫌がっていたみたいなんです(笑)そんなに嫌がるなら、ということで、偶然ダンススタジオに見学に行きました。そこで私がすごく喜んで「楽しい!」って言っていたみたいで(笑)それがダンスを始めたきっかけでした。

徳橋:ジャズダンスとクラシックバレエの両方を、そのスタジオで習っていたんですか?

中城:始めのうちはそうでした。ただある時、クラシックバレエの先生が独立してスタジオを開かれたので、そちらの方に移籍し、10代の初め頃までクラシックバレエに専念しました。

徳橋:幼い頃の夢は何でしたか?

中城:やっぱりダンサーとか、ダンスの先生でしたね。

徳橋:憧れのダンサーさんはいましたか?

中城:クラシックバレエの世界でもそのような存在はいましたが、それ以上に惹かれたのは、MISIAのバックダンサーさんたち。「大学進学で上京したら絶対にストリートダンスをやろう!」と思いました。「自由に踊りたい!」という思いがふつふつと湧いてきました。

 

夢と現実の乖離

徳橋:大変気になるのが、中城さんの文武両道ぶりです。ダンスに取り組みながらも高知県内有数の中高一貫校で学び、その後一橋大学に進学されましたね。

中城:そうですね。ただ、私が通った土佐中・高校から一橋に行く人は本当に少なく、めちゃくちゃマニアックな扱いです(笑)東大に行く人は10人くらいいましたが、地理的な影響か、関西圏に進学する人も多いです

。

徳橋:そのような状況で、なぜ一橋を進学先に選んだんですか?

中城:祖父が経営者だった影響で、経営について学びたいと思ったこと、東京に行きたかったこと、そして比較的小規模の大学に行きたかったことなどありましたが、最終的に決め手は、オープンキャンパスで訪れた時「こんな美しい学園都市で大学時代を過ごしてみたい」と思ったことです。

徳橋:なるほど。でも見方によっては、夢と現実が離れていったようにも見えますが、いかがでしょうか?

中城:土佐中・高校は私の祖父の代から通う学校だったので、進学したのは自然な流れでした。しかもそこは、芸術系に進む学生がほとんどいない学校でしたし、私自身、経営を学びたいとは思っていたので、大きな方針転換をすることなく大学進学まで来ました。

徳橋:その後、だんだんと将来の仕事について考えたと思うのですが、どのような道を考えていましたか?

中城:「経営学」はどの企業でも通じるものなので、学んだことから業種を絞ることはできず、幅広い業種の会社を受けました。ただ一つ決めていたのは“大企業には行かない”ということ。「新卒が100名以上いるような会社では、全員一様に扱われかねない」と思ったので、一橋を選んだ理由と同じように、各個人の特性が重視されるような、個々人に目が届く規模感の企業を選びたいと思いました。

こうして私は大学卒業後、ある不動産会社に入社しました。不動産業の領域の中で様々なことに挑戦していたところに惹かれました。そして私自身も、不動産の法人営業を皮切りに、新規事業としてインバウンド向けホテル事業や旅行会社の立ち上げなどに挑戦し、やり甲斐を感じていました。

 

捨てきれない夢

徳橋:企業で働いていた間は、ダンスの方はどうしていましたか?

中城:もちろん続けていました。自分で練習しながらスクールに通い、ダンスイベントに出演していました。でも仕事として取り組んではいませんでした。

徳橋:そのうち、ご自身の中で葛藤が大きくなったのですか?

中城:そうですね。昔は“ダンスを仕事にする”ことが具体的にイメージできませんでした。でも昨年(2016年)春、それまで2年ほどストリートダンスを習っていた先生から、代講としてダンスを指導する機会をいただきました。あくまで先生がお休みの時に、ですが。

また同時期に、ダンスの経験が無いオフィスワーカー向けに、個性の表現と体づくりを目的に、ダンスの要素を取り入れたワークショップを継続的に開いていました。オフィスワーカーの抱える、いわゆる運動不足やストレスといった悩みを間近に感じ、私なりに解決策ができるのではないかと思ったからです。

徳橋:実際に教える時、緊張はしませんでしたか?

中城:しませんでした。先生から依頼された時は、ダンス教えることができるレベルになったと認めてもらったようで自信がつきました。またオフィスワーカー向けのワークショップも、参加者の皆さんに喜んでいただけました。参加者がワークショップの中でどんどん変化する様子が嬉しくて、「もっとこの活動を拡大させていきたい!」という思いが強くなりました。

徳橋:それをきっかけに、だんだん独立を具体的に考え始めたのでしょうか?

中城:そうですね。実際に昨年の秋頃、私は2つのことで悩んでいました。一つは仕事のテーマ、もう一つが働き方です。

1つ目の「テーマ」ですが、私が在籍していた不動産会社は、不動産に関する内容であれば幅広く事業展開していく方針だったので、楽しんで仕事をさせていただいていました。しかし「不動産というテーマに生涯かけて取り組むか」と聞かれたら、少し違う気がしました。

そこで改めて自分と向き合い、たどり着いた答えが、幼少の頃からずっと取り組んできた“表現”でした。パフォーマーとして自分が表現することはもちろん、他の人たちにも表現することの素晴らしさを伝えたいと思うようになりました。

もう一つの「働き方」は、自分が事業主となるのか、それとも会社に雇用されるのか、ということです。それらを自分の中で比べ、会社に留まるか否かについてまで考えた末に、事業主としての働き方にシフトしたいと思いました。「テーマ」と「働き方」について考えが固まったのが昨年の冬。そして今年(2017年)3月を区切りとし、新たな一歩を踏み出しました。

 

“今”を生きる

徳橋:そして、ついに独立されましたね。会社を辞める時、躊躇いはありませんでしたか?

中城:ひとつ大きな心理的支えになったのは、旦那さんの存在でした。今年4月に入籍したばかりなんです。どんな働き方・生き方をしたいかについて、私たちの考えが一致していますし、それを実現するための挑戦なので応援してくれています。

また結婚を機に考えたのは、時期は決めていませんが「いずれは出産・育児をするのではないか」ということです。それによって、自分の価値観が大きく変わるのではないか、と。一般的には、結婚・出産・育児が理由で何かを“やりたくてもできない”と行動を諦めざるを得なくなると考えがちです。でも諦めるのではなく、そもそも価値観が変化し、自分の時間やエネルギーを費やしたいと思うものの方向性が変化するのではないかと想像しています。

それなら、もっと“今”を大事にしようと思いました。「今やりたい!」と思っていることを、やりたいと思っている時にやらないと、やる前に自分が変化してしまう。だから私は今年4月に独立し、「セルフメンテナンス学習 ばるっぽスタジオ」を開設しました。ピラティスや、22年間にわたり様々なダンススタイルを習得する過程で学んだ体づくりのメソッドをお伝えするスタジオです。

徳橋:ダンスの分野ではなく、どちらかというとヘルスケアに近い分野で独立したということでしょうか?

中城:ダンスでは指導と作品創作を行い、ヘルスケアは開設したスタジオで行うという、二足の草鞋です。ピラティスは、私自身のダンスパフォーマンスの向上のために始めたものでしたが、オフィスワーカーの抱える運動不足や体の不調などの問題解決に役に立つメソッドなので、会社勤めをしながら指導資格を取得しました。

私のスタジオのコンセプトは「日常、自宅で続けるセルフメンテナンスの学習」です。運動不足の解消のため、とりあえずジムに入会したけど、結局ほとんど通わず、幽霊会員で月謝だけ払い続けている人って多くいますよね。そして日々なんのケアもできず、疲れ切ってからマッサージに駆け込むというパターン。マッサージが悪いということではありません。ただ、もしマッサージを受けることでしか体のケアができなかったとしたら、自分の体なのにメンテナンスはいつまでたっても人の手に頼らざるを得ず、自立ができないのではないか – そんな問題意識がありました。

だから私は、いらっしゃるお客様はスタジオに通う頻度が高くないと想定した上で、その人たちに何ができるのか、どうやったら人はセルフメンテナンスを習慣化できるのかを考え、伝えています。「日常、自宅で続けるセルフメンテナンスの学習」というコンセプトだから、スタジオに来た時だけ運動するというのは、私が望むものではありません。スタジオというより、セルフメンテナンスの仕方を学ぶ“学習塾”といったほうがしっくり来るかもしれませんね。

そのほか、企業様向けにワークショップを行っています。それらは“働き方改革”の一環として取り組んでいます。前職で私は働き方改革に取り組んでいましたが、たとえ会社が働く時間や場所などの選択肢を広げ制度を変えても、結局社員一人一人の意識が変わらないことには、変化は起きません。そこで私は意識改革として、“切っても切り離せない自分の体”という視点からのアプローチを提案しています。体のコントロールから始まり、働く時間の使い方や場所の選び方などのコントロールにまで意識を広げていただくことが目的です。

この「ばるっぽスタジオ」に加えて、ダンスについてお話しすると、芸術として私自身のパフォーマンスを追求することはもちろんですし、事業としては教育の側面からダンスを捉えています。ダンスは自分の個性に向き合いながら深く掘り下げ、それを表に出す練習として最適です。また他の人の表現を見ることで、自分とは違う個性や考えを学び受け入れる練習にもなります。


撮影:徳橋功

 

世界への挑戦

徳橋:そして独立した矢先、すぐに次なる挑戦が待っていますね。

中城:そうです。今年6月末、「表現と体づくり」をテーマにした世界一周の旅に出ます。アメリカ(サンフランシスコ、ニューヨーク)〜キューバ〜アイスランド〜スコットランド〜イングランド〜ポルトガル~スペイン~ドイツと近隣諸国〜アラブ首長国連邦〜インド〜タイ〜ミャンマーを3ヶ月半かけて周ります。

この中でスコットランドのエディンバラでは、世界的なパフォーミングアートの祭典「エディンバラ国際フェスティバルフリンジ」でパフォーマンスをする予定です。そのほかの場所でもストリートパフォーマンスに挑戦してみたいですね。

徳橋:この旅を考えたのは、いつ頃ですか?

中城:私が旅行会社の立ち上げに関わっていた頃です。当時は同僚にインドネシア、タイ、フィリピンの出身者がおり、彼女たちは「日本で働きたい」という夢をそこで実現させました。そんなほぼ同世代の彼女たちのバイタリティーに圧倒されました。だから私も、もっと広い世界を見て、

将来の活動に結びつく旅をすることにしました。観光地巡りではなく、表現や、そのための体づくりについて学ぶために世界各地のパフォーマーさんたちにインタビューさせていただいたり、私自身がパフォーマンスをしたりする予定です。

徳橋:テーマを決めた旅であり、そのテーマが「表現と体づくり」なんですね。本当に興味深いです。

中城:私自身、この1年ほど“頭で分かっていても行動できない”という状態でしたが、だんだん考えが固まってきました。そうなると、それに向けて動き出さないのは“やりたいことを1日ずつ先送りしている”だけ。だから、やりたいことに時間とエネルギーを集中させるために会社を離れることにしたのです。

徳橋:いわば“OL人生の強制終了”ですね。

中城:そうですね。経営者である祖父の影響が大きいと思います。

それに、私が在籍していた会社は「新しいことに挑戦すること」をモットーにしていますので、社長や役員、上司の方々に退職理由と今後について説明した時は、むしろ熱いエールをいただき、送り出して下さったくらいです。

今回の旅では様々なパフォーマーのユニークな表現を見て、私自身刺激を受けると思います。なぜなら彼らは、他者との違いを表現することを追求している人たちだと思うから。そしてあらゆる場所で学んだことを、ぜひ多くの人たちに共有していきたいです。特に私は高知県の田舎の出身なので、ローカルなところでそんな機会を作れたらと思います。高知など地方は、東京のような大都市と比べたらどうしても多様性は低い。今時、インターネットで何でも情報を得られるにせよ、身近な環境では出会わない人に直接会うことで、考えが大きく広がることはあると思います。だから地方の教育現場などで、今回の学びを共有していけたら、新たな価値を作れるのではないかと考えています。

 

徳橋:中城さんの夢は何ですか?

中城:

「違いがないと意味がない」 – そう思えるくらい個々人が表現することを実現させたいです。

そして「周りと同じである方が良いんじゃないか」という思いを少しずつ無くしていくこと。

「周りと同じ選択ではなくて、自分がやりたいことをやってみよう!」と思えるように・・・

 

中城さん関連リンク

ばるっぽスタジオ:facebook.com/bar.po.studio/
YouTube(Chihiro_Dancer):こちら