対談① 松尾美里さん

日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター

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提供:松尾美里さん

 

 

京都大学文学部社会学専攻卒業後、教育企業に入社。英語教材編集、デジタル教材関連新規事業の運営、顧客対応、宣伝物制作を経て、大学受験生の学習コンサルタントを担当。2013年4月、面白い生き方をしている人が、どんな教育体験を受けてきたのかを聞く『教育×キャリアインタビュー』を開始。2015年4月より、本の要約サイトを運営するオンラインメディアにインタビュアー/ライターとして勤務。他に人事担当者向けメディアや、グローバル顧問および起業家を紹介するメディアにてインタビュー記事を執筆中。

 

 

 

 

 

不肖・徳橋のことを書いてくださった記事(執筆者は次回ご紹介します!)をご覧になって私にご興味を持ってくださったのが、今回のインタビュー相手である松尾美里さんです。2016年4月に都内で初めてお目にかかり、拙い私の話を目をキラキラさせながらお聞き下さいました。今回のインタビューはそのお礼のつもりで実施。心からの共感と学びと気づきに満ち満ちた対談になりました。

*インタビュー@品川

 

学生時代の原体験

徳橋:インタビューを始められる前、松尾さんは教育に携わられていたそうですね。

松尾:はい。大学卒業後、株式会社Z会に入社しました。学生時代からずっとZ会の国語教材に親しんでいたのがきっかけです。

徳橋:松尾さんがZ会に入られたのは、教育業界を目指したからですか、それとも出版業界を目指したからですか?

松尾:どちらかというと教育に携わり、人の成長する瞬間に立ち会いたいと思ったからです。私は昔から英語に興味があり、英語の先生になりたいと思っていました。でも英語は自分でも勉強しようと思ったので、英語の教員免許状が取れて、臨床心理学か社会学が学べる学部に行きたいと思い、京都大学文学部社会学専攻に進みました。

実は私が大学1回生の頃、Z会が出していた会報にZ会OGとして取材を受けたんです。その会報には会員の方々の声や大学生の日常生活がちりばめられていたり、臨床心理士が高校生の悩みに答えるコーナーなどがあったりして、私も熱心に読んでいました。

他にも中学生の頃、地方新聞の「子ども特派員」みたいなものに応募して、元サッカー日本代表の宮本恒靖選手に取材に行くという機会があったんです。当時はインタビューに特化した職業があることすら知らなかったし、インタビューはアナウンサーや、現役を引退したスポーツ選手がするものだとばかり思っていました。ですが、時を経てインタビューが仕事としてあるのだと知り、「こんな風に取材ができたら面白いだろうなぁ」と思うようになりました。

徳橋:回り回って、松尾さんが取材を受けた会報を発行している会社に入ったわけですね。

松尾:そうですね。入社後、私は教材制作や映像授業のディレクションなどを担当しました。でも実は誰かが書いた文章を編集することにはそこまで熱意を持てず、「自分で現地に行って、面白いと感じたものを集めてくる」というのをやりたいという思いがずっとありました。

 

あるのは“情熱”だけ

松尾:Z会には5年在籍し、その間に新規事業の立ち上げや学習アドバイザー業務にも携わりました。その傍らで入社4年目の2013年、インタビューを趣味でやってみようと思いたちました。

徳橋:それは、松尾さんが学生時代に取材を受けた原体験があったからでしょうか?

松尾:もしかしたらそれもあるかもしれません。私は教育と共に人材系の仕事にも興味があったので、キャリアカウンセラーの勉強をしていました。そこで得た知識や“人の話を聞くのが好き”という自分の特質を生かして何かできないか、と考えていました。

その時、すでにキャリアカウンセリングについて勉強されていた方が「インタビューしてみたらいいんじゃないですか?」というアイデアをくださって。教育業界に身を置いているのだから、教育を切り口にして面白いと思う人たちの人生や哲学を聞いてみたらどうだろう・・・と。

「なるほど!」と思いました。それで『教育×キャリアインタビュー』というブログを立ち上げ、勤務後や週末に取材して記事をアップしていました。


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松尾さんが独自に立ち上げたインタビューブログ『教育×キャリアインタビュー』

 

徳橋:実際にはどういう人たちに会ったのですか?

松尾:尊敬している友人にお願いしたり、そこから人を紹介していただいたりすることもありましたが、ホームページを見て「面白そうだな」と思った人には、お問い合わせフォームからコンタクトを取ってお会いしていました。個人のブログなのにインタビューを引き受けてくださった人たちには心から感謝しています。

徳橋:最初にインタビューした時のことを覚えていますか?

松尾:1人目のお相手は、イランの研究をしている友人でしたが「話を聞くのって楽しい!」とあらためて思いましたね。

徳橋:インタビューを断られたことは無いですか?

松尾:『教育×キャリアインタビュー』では、無いですね。

徳橋:企画書はあったんですか?

松尾:それも無くて、ただメールで取材の趣旨と、なぜあなたのお話をお聴きしたいのかというのを伝えただけでした。

徳橋:情熱で押していったのでしょうね。

松尾:それは言われたことがあります。「“あなたのことを聞きたい!知りたい!”という思いがメールの文面に出ていたね」って。

徳橋:取材先は主に東京でしたか?

松尾:東京だったり、関西だったり。関西は、私が里帰りした時ですが。

徳橋:当時ご勤務されていたZ会は静岡県三島市にあり、松尾さんはそちらにお住まいでしたよね。つまり純粋に取材のために交通費を出して東京に行かれた。それだけでもすごい情熱だと思いますが、最終的に何人くらいにインタビューしたんですか?

松尾:約2年間で70人くらいです。

徳橋:どんな職業の人に対してですか?

松尾:経営者やカウンセラー、お坊さん、弁護士志望の学生など、実にさまざまな職業に就かれている方です。紛争解決のプロを目指す方や自転車旅人など、明確な職業名がない方も含め、私が「この人、素敵だな」と思った人に会いに行き、ブログに記事を書かせていただきました。

 

人間の“本質”を伝える

徳橋:インタビュー終了後、すぐに執筆に着手しますか?

松尾:着手は早い方だと思います。そうしないと印象に残ったことや感動の“旬”が過ぎてしまう気がする。そういう強迫観念があるんです。

徳橋:それだけではなく、「早くこの人の魅力を世に伝えたい!」という思いもあったのではないですか?

松尾:そうですね。自分が知っただけで終わるのではなく「こんなすごい生き方があるから伝えたい」という思いで書いていました。

徳橋:インタビューをまとめるのは、最初は難しくありませんでしたか?

松尾:むしろ今の方が難しいです。最初の頃は、私の思うままに書いていたのですが、今は「どうすればもっと読む人に楽しんでもらえるだろう?」などいろいろ考えながら記事を作りますし、何よりも「この人の“本質”って何だろう?」と考えながらまとめるようになりました。

その傾向は、他の媒体にも書かせていただくようになってから顕著になってきました。いくら頑張って書いたとしても、ブログだとインタビュー相手の方しか文章をチェックしないから“趣味”で終わってしまいますしね。

だから“仕事”として本格的にやりたいと思い始め、Z会の仕事の傍らライティング経験を積んでいました。昨年(2015年)、本の要約やインタビューを掲載するメディアを運営する株式会社フライヤーにご縁があって転職し、今に至ります。

徳橋:「誰も文章をチェックしないから“趣味”で終わってしまう」 – 同感です。僕が本(*詳細はこちら)を書こうと思ったのも、それが理由です。編集者という第3者からの厳しいチェックを受けながら文章を書くという経験をしないとダメだと思ったのですが、実際にそれを経験すると、文章がそれ以前とは全く変わってくるんですよね。

松尾:そうですね。ブログに記事を書いていた頃は、同じような理由から文章の構成や見出しのつけ方を練る機会が今ほどありませんでした。だから客観的で的確なフィードバックが欲しかった。ブログ以外の場で書き始めるようになってから、その機会に恵まれるようになりました。

 

インタビュアーは“架け橋”

徳橋:インタビューの時に心がけていることはありますか?

松尾:インタビュー中は「この人とデートをしているんだ」と思うようにしています。相手の性別問わず、初デートを楽しむような気持ちで臨む。そうすれば相手の表情に敏感になるし、「この人はどういうものを背負って、こういうことを言ったのだろう?」というところまで思いを馳せられます。

でも一方で状況を俯瞰して「あ、今私はだいぶテンションが上がっているな」とか「相手の中にまだ言い足りないことがあるような気がする」などと、第三者的に判断する自分もいる。相手に憑依するくらい目の前の人に寄り添う自分と、客観的に場全体を“メタ認知”している自分の両方を持つことを大事にしていますね。

徳橋:まさに“冷静と情熱の間”でインタビューをされているのですね。

松尾:そうかもしれません(笑)なぜなら状況を俯瞰する間に、記事の構成を考えられるからです。「この人は、これを一番お伝えしたいんだな。私にとってもこの話が一番面白いし、ここにもっとフォーカスした方が良いかもしれない」という判断を、インタビュー中にできる。相手の話を夢中で聞く自分だけでなく、時間との兼ね合いも見ながら、さらに相手の魅力を引き出すために次の質問を考える冷静な自分も必要だと思っています。実際にはなかなか難しいんですが。

徳橋:でも一方で、“捨てる”という作業も必要になってきますよね。相手の言葉全てを載せるわけではない。その時は、やはり“キラリと光る言葉”を中心に構成しますか?

松尾:そうですね。その時に考えているのが「この人の本質は何か?」「この人の真の魅力は何だろうか?」ということ。そしてそれらを伝えるために、インタビューでおっしゃっていなかったことでも、資料などで調べたことを付け加えることがあります。

徳橋:それはすごく分かります。僕も同じことをする時がありますし、それで相手の人が喜んでくれることがありますから。

松尾:インタビュアーって、ある意味“架け橋”だと思うんです。読者とインタビュー相手とが良い出会いをするための架け橋ですね。その役目を果たすために「私はこの言葉にこだわっていたけど、読者にとっては別にいらないんじゃないか」と思って割愛することさえあります。

徳橋:あとはストーリー展開ですよね。「この人の魅力はたくさんあるけど、全て詰め込もうとするとこの人が何者なのか分からなくなる。だからこの部分を軸にした方が良いな」とか、考えるのではないですか?

松尾:そうですね。インタビューしていて「上手くいった!」と思うことなんて、100回中1回あるか無いかです。だからこそ、インタビューの可能性は無限だと思うし、これからもずっと続けていくでしょうね。

 

互いに響き合う

徳橋:インタビュアーに向いているのは、どんな人だと思いますか?

松尾:好奇心が旺盛な人かな、と思います。そして、インタビュー相手に対する興味のポイントを発掘していこうという気持ちがあることでしょうか。あとは“自分独自の視点”を探そうとすることかな、と。もっと踏み込んで言えば、インタビュアーは“独自性”を持ちつつ「他の人とは違う部分をつくる」という“排他性”も必要かな、と思いますね。

徳橋:松尾さんにとって、インタビューって何ですか?

松尾:「対話と相互作用」です。

相手の魅力を引き出す。それも、今日のこの瞬間にお話をお聞きしたからこそ、相手がふと見せてくださった魅力があるかもしれません。そして私自身も対話の中で気づきや変化が起きる。対話の中でお互いが影響し合うのがインタビューなのだと思います。

キャスターでForbes JAPAN副編集長兼WEB編集長を務められている谷本有香さんにインタビューさせていただいたことがあります。谷本さんは「これまでどこにも語っていなかった、私が“いま”ある理由や思いをきちんとすくい上げてくれた」と話してくださって。


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ジャーナリストの谷本有香さんにインタビュー。谷本さんの人生観や死生観に影響を与えた本を紹介。

 

そういう瞬間があるから、インタビューをさせていただけるって、本当に尊いことなんだなって思うんです。

 

松尾さん関連リンク

教育xキャリアインタビュー:edu-serendipity.seesaa.net/
flier:flierinc.com/
flier インタビュー特集:flierinc.com/features/list
異文化マネジメント最前線 gbij.jp/interview/diversity-management-1/
Wahl & Case 起業家インタビュー:こちら
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